広い広い、Star Diamond。

Star Diamond ──それは、冬の夜空に輝く宝石。

 

6つの1等星;シリウス、リゲル、プロキオンポルックス、カペラ、そしてアルデバランからなる「冬のダイヤモンド」。オリオンや冬の大三角に比べれば知名度は低いが、いざ見つければその形状の美しさと広さに心を奪われることでしょう。

  

次の画像は、3月中旬の星空のようすです。

もう4月は始まっていますが、夜の早い時間であれば冬のダイヤモンドを西の空に見ることができます。

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 国立天文台の画像にダイヤモンドを書き込んだ。 https://www.nao.ac.jp/contents/astro/chart-list/mono/ja/chart03.pdf

 

このダイヤモンドは、正六角形とはいえなくとも、整った形をしていてなんとも引き締まって見えます。まるで、冬の静かな冷気の中で、穏やかに結晶化したかのようです。

 

星の色も様々で、青白くまばゆいシリウスから穏やかな橙色のアルデバランまで幅広く、見飽きることはありません。

 

ダイヤモンドを構成する6つの星は別の星座に属しています。

おおいぬ座こいぬ座、ふたご座、ぎょしゃ座、おうし座、オリオン座。

サーカスのステージのような六角形の上を、個性豊かな演者たちが跳ね回っているようにも見えます。

 

 

 

かくいう私、少女歌劇レヴュースタァライトで「Star Diamond」*1が取り上げられるまで個々の星座の神話も知らなかったし、ダイヤモンドとして認識したことすらありませんでした。 

その理由の1つに、冬のダイヤモンドは実際に見上げてみると極めて広く、視界の隅の星々を結ぶ必要があるため、意識しないと見逃してしまうからです。

 

初めて冬空の六角形をなぞった時のことは私もよく覚えています。

あの頃には戻れない、何も知らなかった日々、胸を刺す衝撃を浴びてしまったから──。

 

 

 

はい。この衝撃を、皆様に定量的にお伝えしたいと思います。

 

今回のトリビアの種「冬のダイヤモンドは 満月???個分の広さ」です。

 

 

 

(最後までスキップしてもらって構いません。)

 

(以下では先達の天文学者達の功績、とくに球面三角法を用いた説明を行いますが、ややこしいことを言わずとも全て高校理系数学程度で理解できます。さらに球面三角形の面積の証明(リンク先にお任せ)は、中学受験の問題のような面白さがあります。)

 

 

宇宙は3次元に広がっていますが、夜空の星は「天球」に並んでいるように見えます。この天球面上での面積として求めましょう。天球は仮想的な面なので、半径を定義しません。かわりに天球面上の2点間の距離は角度で表します。

球面は曲がっているので、平面で使っていた面積公式は成り立ちません。球面幾何学 - Wikipediaと呼ばれる数学から求める必要があります。球面幾何の大きな特徴は2つあって、

  • 2点を結ぶ直線を球の大円で定義する
  • 2直線の角度を大円のなす角度で定義する

ことです。この定義から次の図を見ると、

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  • 線分ABの長さは、 \angle AOBである
  • 角度BACの大きさは、 \angle POQである

 ということになります。

 

六角形の面積を求めるために、まず図形の基本要素である三角形に分割してみましょう。隣り合っていない頂点と頂点を結べば、六角形は4個の三角形に分割することができます。この1つ1つの三角形の面積を求めて合計すれば、六角形の面積が得られます。

 

 

証明は以下のリンクで、ということにして、球面上の三角形 ABCの面積 Sは、球の半径を 1, 三角形の内角を A B C として

 S=A+B+C-\pi

と表されます。つまり内角の和から \piを引けば三角形の面積になります。

(「内角の和は 180^\circ=\piだから、 S=0になるのでは!?」と思われるかもしれません。実は「内角の和は 180^\circ」は平らな面上*2でのみ成り立つ定理で、球面のような曲がった面上では一般に成り立ちません。)

 

球面上の三角形の面積と内角の和 | 高校数学の美しい物語

証明はこちら。興味がある方はご覧ください。とても視覚的に分かりやすい説明です。

 

 

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三角形に分割した冬のダイヤモンドのイメージ

 

すると冬のダイヤモンドの面積 S_{dia}は、

 S_{dia}=S_{1} + S_{2} + S_{3} + S_{4} 

 \hspace{16pt} =(S_1 の内角の和) -\pi + (S_2 の内角の和) -\pi + (S_3 の内角の和) -\pi + (S_4 の内角の和) -\pi  

 \hspace{16pt} =(六角形 の内角の和) -4\pi

だとわかります。

というわけで六角形の内角を求めていきましょう。

 

そのためには6つの星の位置に関するデータが必要です。今回は天体アーカイブSIMBAD(http://simbad.u-strasbg.fr/simbad/)から赤経赤緯(地球公転軌道を赤道として天球に張った経度緯度)のデータICRS(ep=J2000)を引っ張ってきました(元論文は van Leeuwen F., A&A 474, 653-664 (2007) https://www.aanda.org/articles/aa/abs/2007/41/aa8357-07/aa8357-07.html)。

 

このデータを用いて、まず星と星の間の天球面上の距離を求めます。上述の通り距離は 星 A- 観測者 O- Bのなす角なので、ベクトル \vec{OA} \vec{OB}内積で求められます。

星による三角形 ABCの辺々の長さ a, b, c がわかれば、球面で成り立つ余弦定理

 \cos a=\cos b \cos c + \sin b \sin c \cos A

球面三角法 - Wikipedia)を適用することで内角 Aの大きさがわかります。

 

 Aと同様に六角形の内角を調べ上げて足し、最後に 4\piを引けば冬のダイヤモンドの面積が求まります。

 

 

次に、基準となる満月の面積 S_{moon}を求めましょう。満月の中心を基準として極座標積分すれば、

 S_{moon}= \int^{2\pi}_0 d\phi\int^{\theta_{moon}}_0 \sin\theta d\theta \simeq \pi \theta_{moon}^2 \simeq \pi (r_{moon}/d_{moon})^2

 と求まります( r_{moon}は月の半径、 d_{moon}は月までの距離)。

 

実は、満月の面積にはバラツキ(月だけに)が最大 20\%程度あります。

これは月が地球周りを楕円軌道で公転していて、月までの距離 d_{moon}が変化するためです。満月の面積を基準にしてしまったことが今回のブログで最大の過ちです*3

 

 

そのことを加味した上で、冬のダイヤモンドの面積 S_{dia}と満月の面積 S_{moon}の比を求めると、

 

 

「冬のダイヤモンドは 満月 9,229 \pm 990個分の広さ」

 という結果になりました。ざっと1万倍です。

 

 

 

 

輝き溢れる広大な冬空のステージを、今宵見上げてはみませんか?

 

 

 

 

 

*1:スタァライト九九組 6thシングル「Star Diamond https://revuestarlight.com/music/6thbdcd/、6つの星々をテーマにしたアルバム「ラ・レヴュー・エターナル https://revuestarlight.com/music/revuealbum/、3rd スタァライブ「Starry Diamond」 https://revuestarlight.com/event/4597/

この記事は「Starry Diamond」ライブBD発売を記念したものであると同時に、岩田陽葵さんのお誕生日(4月3日)をお祝いするものです。...といえるのか...。

*2:このような世界をユークリッド空間、球面のような曲がった世界を非ユークリッド空間と呼びます。

*3:結果の不定要素は数々考えられますが、最大の原因がこの月の楕円軌道 ( e\sim 0.05) です。星々の固有運動や年周視差による S_{dia}の変化は年間 \sim 0.001\%程度で十分無視できます。